書籍「仏事・仏壇がよくわかる」を全編公開
はじめに
はじめての仏事
葬儀を終えて火葬場から帰ってくるなり、「初七日の法要はどうしますか?四十九日はいつになりますか?」と聞かれて戸惑ったことはありませんか。大切な人との別れは理屈ではわかっていても、納得できない寂しさや悔しさが残ります。しかし、葬儀を終えたあと、ほっとする間もなく、初七日、四十九日の仏事は営まなければなりません。
親戚や友人の仏事には参加していても、いざ自分の身になると、段取りがわからず、どうしたらよいかわからないのが仏事です。友人知人にも聞きづらいものです。
わからないと余計に「葬儀を終えて一段落しているのに、まだやることがあるのか」と思ってしまうのが心情で、悲しみにくれる時間を与えてくれないのです。
昔から喜びや悲しみを共にする人が亡くなると、故人のために四十九日や一周忌の仏事を営んできました。仏事は昔から残された者の心を支える大きな役割をはたしています。仏事は故人にとっても、悲しみの中に残された者にとっても大切な行事であり、必要な行事だったからこそ今の時代まで続いているのです。
仏事は命のつながりを痛感し、自分自身を見つめ直す、仏教が生んだすばらしいシステムといえるのではないでしょうか。
ただ、核家族化がすすんだため、仏事に詳しい人が身近に少なくなってきました。昔はお年寄りなどから仏事のしきたりを自然に教えられてきましたが、いまは誰に何をどのように聞いたらいいのかさえわからない人が増え、仏事を面倒、と考える人もいます。また、地方から上京した人や、若い人のなかには、自分の家の宗派が何であるかを知らない人もいます。お葬式を出すときにあわてて何宗だったか調べる場合もあるようです。
仏事のしきたりには、宗派の教義の違いや、地域の風習の違いによって異なる、わかりにくい部分もあります。
しかし、誰しも葬式や仏事を避けて通ることはできません。親戚や友人知人に仏事に気持ちよく参加していただくためにも、また、恥ずかしい思いをしないためにも、最低限の常識は身に付けていたいものです。
仏事とともに仏壇について知らない方が増えています。両親と同居していない子ども夫婦の家庭には仏壇がないのが普通で、親が亡くなって、はじめて仏壇を買い求める方が多いです。しかし、普段、見慣れてない仏壇のこと、どこで、どんな仏壇を購入したらいいのかがわからないのです。
筆者は東京の浅草で仏壇店を営む3代目です。仏壇店には毎日さまざまなお客様が来店されます。身近な人が亡くなり、葬儀を終えたあと、あわてて来店する方が少なくありません。家に仏壇がない、四十九日までに必要だと仏壇店に駆け込むのです。
そういうお客様の話を聞いていると、「どんな仏壇を選べばよいのか分からない」という方が多いです。仏壇をいくつも見て「仏壇によって、なぜこんなにも値段がちがうのか」という悩みも出てきます。
仏壇は一生に一度の買い物です。ただ値段だけ、見た目だけで選んでしまったら、後で悔やむことにもなりかねません。仏壇のことをよく知っていただき、納得いく仏壇を購入していただきたいと思います。
仏教をむずかしく書いた本はたくさんありますが、なぜかいままで「仏事や仏壇」をやさしく書いた本はありませんでした。
宗教というと、何となく怪しく見られる今の時代において、日本の古き良き慣習としての「仏事や仏壇」を見直していただきたいと思い、この本を書くことにしました。
はじめて仏事を営んだり仏壇を安置する方に、役立てていただけたら幸いです。
本記事は書籍「仏事・仏壇がよくわかる」からの転載です。
著:滝田 雅敏