書籍「仏事・仏壇がよくわかる」を全編公開

第3章(1) 仏壇・仏具の選び方と飾り方

【1】仏壇の購入時期

仏壇は江戸時代に庶民の間に広まり、たいていの家に仏壇があるまでに普及しました。最近は核家族化が進むにつれ、仏壇がない家がまた増えてきました。親が住んでいた家を子供が使わない、家そのものが一代かぎりという考えになってきたためです。
しかし、家に仏壇がないと、身近な人が亡くなったとき、位牌を安置する場所がありません。そのとき、はじめて仏壇を購入することを考える人が増えています。長男、次男に関係なく、仏壇を求める時代になっているのです。
仏壇は「家庭内のお寺」と言われるように、本尊をまつり、朝夕おまいりするものです。そして、仏(ほとけ)となった故人や先祖を供養するために、位牌を安置しておまいりするものです。

お客様から「いつ仏壇を買ったらいいのでしょうか」と質問を受けることがあります。最近は身近な人が亡くなってから購入する方が増えていますが、仏壇を購入する時期は人それぞれに違っていいのです。
亡くなった人がいないのに、仏壇を購入すると不幸が起こるとか、閏年に仏壇を購入してはいけない、と昔は言われたようですが、まったく根拠のない迷信です。
身近な人が亡くなったあと、購入する方は四十九日法要までに仏壇を購入するとよいでしょう。間に合わない、じっくりと良い仏壇を選びたいと考えるならば、一周忌までに購入することをおすすめします。
お盆、お彼岸、年回忌を機に購入する人もいます。家を新築するときに仏壇購入を考える人もいます。仏壇を購入するのに、良い時期、悪い時期はありません。思い立ったときが購入時期といえます。

【2】仏壇の安置場所はどこが最適でしょうか

1.仏壇の安置場所

仏壇を購入する前に、仏壇を安置する場所を決めましょう。かつては、たいていの家に仏間があったので、安置する場所を考える必要はありませんでした。しかし、仏間のない家がほとんどとなりました。最近では和室のない家が多くなったので、仏壇を置く場所を考えなければならなくなったのです。
仏壇を安置する向きは、仏教では十方どの方角にも仏はいるとされているので、方角に吉凶はありません。が、一般的には北向きは避けて置きます。
家のなかで、落ち着いて礼拝でき、家族が毎日おまいりしやすい場所が一番適しています。座敷があれば、座敷が最適ですが、家族が集まりやすい居間でもいいでしょう。

仏壇のことを考えますと、直射日光が当たらない、湿気の少ないところで、冷暖房の風が直接あたらない場所がよいでしょう。直射日光や湿気、冷暖房の風は仏壇を傷めるのです。
床の間や押入れの上部、整理タンスの上、居間のサイドボードなどの上に置いてもかまいません。テレビやオーディオラックの上など、音がするものの上には置かないようにしましょう。また、仏壇の上に何も置かないようにしましょう。
もうひとつ、気をつけることは、仏壇の高さです。座っておまいりするとき、本尊の位置が目より少し上になるように安置することです。立っておまいりするときは、本尊が胸よりも少し上くらいの位置になるように安置します。

「仏壇を安置する方角」

仏は十方どの方角にもいるので、仏壇はどの方角に安置してもよいのですが、昔から仏壇の向きには諸説あります。

(1)南面北座説
仏壇を南に向け、北を背にして仏壇を安置する考え方です。この向きは仏壇に直射日光があたらず、風通しもよいので、家のなかで最適な仏壇の安置場所になります。ここから、仏壇の北向きはよくない、と言われるようになったようです。

(2)本山中心説
仏壇の前に座って礼拝するとき、拝む延長線上に宗派の総本山がある方向に安置します。本山によって、住む場所によって、西向きにも東向きにも南向きにもなります。

(3)西方浄土説
西方浄土とは極楽浄土のことで、西方浄土の方向にある西に向かって拝めるように、仏壇を東向きに安置します。

どの説をとるかで、仏壇を安置する方向が決まりますが、どの方向にもなりうるので、仏壇はどの方向に安置してもかまわないのです。

2.寸法をはかる

仏壇の安置場所を決めたら、どのくらいの大きさの仏壇にするかを決めます。
まず、安置する場所の寸法をはかりましょう。高さ、幅、奥行きなどをきちんとはかります。サイドボードや整理タンスの上ならば、問題はありませんが、仏間や押入れの上段に安置するときは、気をつけてください。仏壇の扉は観音開きで両側に開きますので、本体の寸法だけではなく、扉が左右に開くスペースも考えて、仏壇の大きさを考えましょう。
家の新築にあわせて仏壇を購入するときは、先に仏壇を決めてから、仏壇の大きさに合った仏間やスペースをつくったほうが納まりがよい、と仏壇店ではアドバイスしています。
忘れがちなのが、マンションの玄関や部屋の入り口の大きさです。部屋に適した大きな仏壇を選んだものの、部屋の入り口が狭くて入らなかった、ということにならないように、玄関や部屋の入り口の寸法もきちんとはかっておきましょう。

【3】仏壇は一生に一度の買い物

仏壇購入は高価な買い物です。あまり急いで買わずに、何店か仏壇店を見てまわり、値段を調べてから予算を立てるとよいでしょう。いずれは仏壇を購入したいと考えているならば、費用を積み立てておくのもひとつの手です。
仏壇を購入するとき、仏壇だけではなく、本尊や花立、香炉などの仏具も必要になります。それも含めて、予算を立てましょう。
仏壇の価格は高いものから安価なものまで幅広いものです。人気のある価格帯は仏壇と仏具を合わせて50万円くらい、高価な仏壇は100万円を超えます。高価な仏壇が良い仏壇ではなく、家にあった仏壇、気に入った仏壇が一番良い仏壇といえるでしょう。
仏壇は何度も買い替えるものではなく、一生に一度の買い物です。良いものであれば、何世代にもわたって家族に引き継がれていきます。価格にとらわれるよりも、気に入った仏壇を選んだほうがよいので、最低でも3軒くらいの仏壇店に足を運びましょう。

【4】全国にある仏壇通り

かつては、多くの寺院のあるところに仏壇店が集中していました。いまでは全国でも仏壇店が集中している通りは少なくなっています。そのなかで、いまも仏壇店が集中している「通り」を紹介しましょう。

1.東京の浅草仏壇通り

JR上野駅から浅草へとつづく浅草通りは、別名「仏壇通り」といわれます。現在、日本で一番大きな仏壇通りです。
上野駅から行くこともできますが、より便利な駅は東京メトロ銀座線「田原町駅」です。田原町駅から地上に出ると、通りの南側に50軒の仏壇・仏具店が上野駅まで軒を連ねていて、仏壇、仏具、位牌、数珠、線香、仏像、寺院仏具、盆提灯、神棚など、宗教用具のことなら何でも揃う商店街となっています。
江戸時代、徳川家康が上野の山に、「東の比叡山」ともいうべき東叡山寛永寺を建立したことから、上野は信仰の地となりました。さらに明暦3年(1657年)の江戸大火の後、幕府が多くの寺院をこの周辺に集めたので、寺町と呼ばれるようになったのです。寺院数は300を超えます。
また、雷門で有名な浅草寺は、隅田川で漁師の網にかかった観音像をまつったことから「浅草の観音様」の名で親しまれ、庶民の信仰を集めるようになったのです。
多くの寺院が集まるにつれ、仏壇・仏具の職人も集まるようになり、浅草仏壇通りが徐々につくられ、現在の「仏壇通り」になりました。

仏壇通りにある仏壇・仏具店は南側に集中しています。直射日光が当って商品が傷むのを避けるために、すべて南側に並んでいるのです。
浅草仏壇通りは、正式には、上野・浅草通り神仏具専門店会といいます。仏壇・仏具店50店舗もの店が集まっているのは、全国でもこの浅草通りだけです。しかも、墓石とか葬儀を扱う兼業店ではなく、どの店も仏壇・仏具の専門店で、日本一の品揃えといえるでしょう。それだけに専門性が高く、店員は豊富な仏事の知識を持っていますので、安心して相談していただけると思います。
仏壇・仏具をお探しの方は、ぜひ一度は足を運んでみるとよいでしょう。

2.名古屋の仏壇通り

名古屋市にある大須観音の南に門前町通りがあります。西本願寺名古屋別院、東本願寺名古屋別院に向かう商店街で、20軒ほどの仏壇店がずらりと並ぶ「仏壇通り」です。
名古屋は世帯数に占める仏壇普及率が全国平均の40%を10%も上回っています。その7割が真宗大谷派の仏壇なので、展示してある仏壇は金仏壇が多いです。
名古屋仏壇の歴史は、元禄時代にさかのぼります。当時の近隣地域には木曽桧が豊富にあったので、宮大工などの職人たちが仏壇をつくりはじめたといわれています。その後、尾張藩が仏壇作りを保護したため、中区門前町や橘町周辺に仏壇職人が集まり、名古屋仏壇の産地となったのです。

3.京都の仏壇通り

平安朝以来、1000年以上も都として栄えた京都。市内にはおよそ1600の寺院があります。寺院のなかでも東本願寺、西本願寺といった多くの本山が存在しているので、京都全体が一つの門前町のようになっています。特に、東本願寺や西本願寺の門前通り、七条通りには、数多くの仏壇店が集まっています。
古都であるゆえに、数々の伝統産業が生まれています。そのなかで、京都を中心に製作される仏壇仏具は京仏壇・京仏具と呼ばれ、最高級仏壇として、いまも続いています。
各宗派の本山が集中する京都だけに、各宗派に深い造詣を持つ作り手たちが多く存在し、各宗派の法式にかなった仏壇・仏具をつくっています。それは各宗派の総本山の本堂の様子を忠実に再現小型化した精緻な工芸品として「京もの」と呼ばれ、格調の高さと精神性を誇っています。

4.広島の仏壇通り

広島の中心街、胡町の三越デパートのすぐ裏に「仏壇通り」があります。
まわりは流川、薬研堀という飲み屋さんが集中しているところで、何でこんな所に仏壇店がと思われるかもしれませんが、この辺はもともと仏壇職人が多く住み、仏壇店が多かったため、仏壇通りと呼ばれていたのです。
いまも仏壇店が何軒もありますが、飲み屋さんがあとから増えてきたのです。
広島では13世紀以来、浄土真宗が盛んに信仰されてきた地域です。16世紀には、安芸門徒は自分たちの寺を守るために、地元の毛利氏とともに織田信長と戦いました。
宗徒の信仰は強く「安芸門徒」と呼ばれていました。熱烈な門徒信仰の拠り所として仏壇がつくられ、広島仏壇の産地となったのです。
江戸時代になると、紀州の浅野氏が藩主として広島にやってきました。藩主とともにやってきた職人のなかに、塗師や、金箔押師などがいたことから、広島仏壇の製造に高度な技が導入されて発展しました。さらにその後、京都や大阪で仏壇仏具づくりを学んだ僧侶が技術を持ち帰ったことで、広島仏壇の製造技術が確立されたのです。
広島仏壇の産地として発展するとともに、広島には卸もする仏壇メーカーが集中しています。

【5】仏壇店の選び方

お客様とお話をしていると、「お仏壇の選び方がわからない」という声をよく聞きます。もう少し詳しくお聞きすると、仏壇の値段の違いがわからない、と悩んでいるようです。
あなたも仏壇は、「大きい方が小さい方より高額で、なんとなく手の込んだ細工が施してあるように見える方が高額なんだろうな」と思っていませんか?
確かにそれは間違いではありませんが、仏壇の値段はそれだけで決まるものではありません。仏壇の値段には、木材の種類や表面材の使用工法の違い、職人の手間のかけ方が関係してきます。
最近では、フィルム加工や木目印刷の技術が進んで、人工的な素材がプロでも間違えるくらい美しくできるようになり、一目見ただけでは天然素材との見分けがつきにくくなりました。新品の仏壇で、どれが本物の銘木を使った仏壇か、木目が印刷してつくられた仏壇かを見分けるのはむずかしいものです。
こうした工法で作られた低価格のお仏壇が中国から輸入され、日本国内で大量に流通しはじめています。

別に安い仏壇を購入することが、悪いわけではありません。
ただ、中国製の低価格のものは、どうしても傷みやすく修復ができないこともあることを知ったうえで購入しないと、後悔することになりかねません。
仏壇は消耗品ではありません。一生に一度の買い物をするのですから、信頼できる仏壇店で購入したいものです。
それでは信頼できるお店を見つけるには、どうしたらよいでしょうか?
まず、店に入ったとき、良い感じかどうかが大切なポイントのひとつです。入った雰囲気が良い、店員の対応が良い店がよいでしょう。そして、面倒くさがらずに、少なくとも仏壇店を3店は見て回るとよいでしょう。必ず大きいお店と小さいお店の両方をご覧になるとよいでしょう。信頼できるお店は、規模には関係ないものです。大きくて有名なお店が必ずしも良いとは限りませんし、小さくて無名であっても満足できるお店はたくさんあるのです。良いお店に共通していることは細やかな気配りがあり、誠実な対応をしてくれることです。

次に、店員が仏壇の製法の違い、宗派や宗派によって違う仏具のことなど幅広い知識を持っていると安心できます。納得いくまで仏壇を見せてくれることも大切です。また、むやみに高い仏壇をすすめるのではなく、自分の予算に見合った仏壇をすすめてくれるなど、細やかな気配りがあり、誠実に対応してくれる店が良い仏壇店といえるでしょう。仏壇は普通の品物と違って、長い年数お使いいただくものです。何年たってもアフターサービスをきちんとしてくれる、信頼できる仏壇店で購入することが大切です。

最近は仏壇店には豊富な知識を持った、仏事コーディネーターがいます。仏事コーディネーターのいる店を選ぶことも仏壇店選びの重要なポイントです。
何軒もお店を移動するのが大変だ、とお考えの方は、浅草仏壇通りに行かれてみたらどうでしょう。50軒の仏壇店が軒を連ねていますので、見て回るのにとても便利です。
あなたも3店回れば、仏壇や仏壇店の見分け方がわかってきます。そのなかで、気に入ったお仏壇に出会えるはずです。

「仏事コーディネーターという資格」

2004年にスタートした「仏事コーディネーター」という資格は、仏事コーディネーター資格審査協会(後援・全日本宗教用具協同組合)が与える資格です。仏壇店などで働く人たちが仏壇・仏具に関する豊富な知識を持つとともに、消費者のことを考えて販売し、嘘偽りのない説明をする店員を養成することを目的としています。
仏事コーディネーターは仏壇・仏具の意味、歴史性、素材、技法、デザインだけではなく、仏事の意味やしきたりに精通している店員で、消費者に仏壇・仏具の持つ価値を適切に説明でき、アドバイスできる販売員です。
仏事コーディネーターがいる仏壇店を選ぶのも、店選びのひとつのポイントです。

【6】気をつけたい「お悔やみ営業」

「お悔やみ営業」をご存知ですか。これはお通夜や葬儀が終わった直後に、仏壇や墓石、香典返しの営業をすることです。
数年前に「遺族の悲しみかまわぬ商魂」という投書が新聞に掲載されたことがあります。その内容は次のようなものでした。
「1月23日、食道ガンと半年闘った夫が黄泉の国へ旅立ちました。翌日から、お墓の売り込み、贈答品業者、仏壇店、百貨店のご進物相談係の来訪が相次ぎました。分厚いカタログを送りつけてくる、その種の業者の商魂には、すさまじいものがありました。悲しみに浸る間もなく、あまりの電話攻勢に娘と二人、疲れ果ててしまいました。
夫の遺言で、密葬にしたにもかかわらずです。
業者さんたち、いい加減にして下さい。少しは遺族の悲しみの心を思いやってください。商魂ばかりが先立つ商売のやり方を反省して下さい」
というものでした。

お客様からも同じような意見が寄せられています。
「母の告別式の翌日、悲しみの中、仏壇業者が3社もきました。無神経もさることながら仏壇業界の姿勢に不信を感じました」
「お線香をあげさせて下さいと言って訪問して来たので、夫が生前お世話になった方だと思ったら、仏壇の売り込みだったので、びっくりしました。人をだますような営業はやめて下さい」
こんな声に接するたびに、筆者たち仏壇業者は心を痛めています。仏壇・仏具の販売は、単にものを売るだけではなく、お客様の人生に深く関わりをもつ仕事です。身近な人が亡くなったお客様の、悲しみに寄り添う気持ちが大切なのです。

しかし、お悔やみ営業をする業者は、不幸のあった家庭にあの手この手で営業攻勢をかけていきます。よく考えれば、これほど非常識で無神経な営業はありません。家族が悲しみに暮れているときに、勝手にカタログを送ったり電話をする。あるいは、お悔やみのふりをして訪問販売する業者もいます。なかには般若心経をあげる営業マンもいるそうです。
「私たちも商売ですから」と言い訳する人もいますが、商売ならば何をしても許されるのでしょうか。

怖いことに個人情報保護法ができた後も、家族が知らないうちにご不幸の情報が業者に流れています。心の安らぎを与えるのが仕事の仏壇業界に、家族の気持ちを無視して、個人情報を営業に利用している業者がいることに心を痛めます。
葬儀の後は、会葬者やお手伝いの人にいろいろ気を使い、疲れきっているのが普通です。そんな営業にいちいち相手をしていたら、ノイローゼになってしまいます。
少しでも相手をすると、次から次へと営業攻勢をかけてきますので、きっぱりと断ることが大切です。

書籍「仏事・仏壇がよくわかる」

本記事は書籍「仏事・仏壇がよくわかる」からの転載です。

著:滝田 雅敏