書籍「仏事・仏壇がよくわかる」を全編公開

第1章(1) 知っておきたい法要の基礎知識

【1】そもそも法要とは何でしょうか?

毎日、仏壇屋にはさまざまなお客様が来店されます。住職と四十九日法要の相談をしたとき、「本位牌は自分で用意しなければならない」とはじめて知って、あわてて来店される方、仏壇を置く広い場所がないので、家に合う仏壇を探しに来店される方、和室がないので、洋室に合う仏壇を探しに来店される方などさまざまです。一番多いお客様は、はじめて親を亡くして葬儀を終えたあと、本位牌をつくるために来店される方です。葬儀のとき、白木の位牌が用意されているので、本位牌も用意してくれるとのんきに構えていたら、住職から「自分で用意してください」と言われて、あわてて来店されるのです。
お客様の声を聞いていると、法事のこと、仏壇のことをまったく知らないため、戸惑っていらっしゃることが伝わってきます。
まずは、法事についてできるだけわかりやすく説明したいと思います。

一般に、私たちは「法事」と言っていますが、厳密に言いますと、住職にお経をあげてもらうことを「法要」といい、法要と後席の食事も含めた行事を「法事」と呼びます。「初七日」とか「四十九日」「一周忌」ということばは聞いたことがあると思います。故人が亡くなったあとに行う重要な法要です。
そもそも法要とは、仏になった故人を供養するという意味の仏教用語で、追善供養ともいいます。法要は故人を偲び、冥福を祈るために営むものなのです。
冥福とは、冥途の幸福のことで、故人があの世でよい報いを受けてもらうために、この世に残された者が供養をします。また一方で法要は、故人への感謝の思いを新たに、自分自身を見つめ直す場でもあります。

仏教では法要を行う日が決まっています。死後七日ごとに四十九日まで行う忌日(きび)法要と、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌などの年忌(ねんき)法要です。
仏教では、死後七週間はまだ故人があの世とこの世の間をさまよっているとされています。この四十九日間を「中陰(ちゅういん)」と呼んでいます。死後七日目から七日ごとに七回、閻魔大王(えんまだいおう)をはじめとする十王から、生前の行いに対してお裁きを受け、四十九日目で来世の行き先が決まるとされています。
残された家族は故人が極楽浄土に行けるように、故人に善を送る(追善)法要を営むのです。

年忌法要は極楽浄土に行った故人がさらなる精進の道へと導くために営みます。一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌、十七回忌、二十三回忌、二十五回忌、二十七回忌とつづき、三十三回忌で長い修行の締めくくりとして、故人は菩薩(ぼさつ)の道に入り、「ご先祖さま様=守り神」となります。
仏教ではさらに、五十回忌、百回忌と続きますが、一般には三十三回忌、もしくは五十回忌をもって「弔い上げ」とし、法事の締めくくりとしています。

「十王審判と十三仏信仰」

仏教では輪廻転生(りんねてんしょう)という考え方があり、命日から四十九日の間に、故人が次に生まれ変わる世界(来世)が決まるとされています。来世とは、天、人間、修羅(しゅら)、畜生(ちくしょう)、餓鬼(がき)、地獄の六道(ろくどう)のことです。この間故人は七日ごとに、生前の行いに対して閻魔大王をはじめとする十王からお裁きを受けるとされています。
しかし、この六道の世界はどこへ行っても煩悩の苦しみがあり、それを超越した世界が極楽浄土です。
残された家族は故人が極楽浄土に行けるように、このお裁きを受ける七日ごとに故人に善を送る(追善)法要を営みます。

十三仏は初七日から三十三回忌までの合わせて十三回の法要の守護仏です。故人は十三の仏様に守られて極楽浄土に導かれ成仏するとされています。
十三仏は、初七日(不動明王(ふどうみょうおう))、二七日(釈迦如来(しゃかにょらい))、三七日(文殊菩薩(もんじゅぼさつ))、四七日(普賢菩薩(ふげんぼさつ))、五七日(地蔵菩薩(じぞうぼさつ))、六七日(弥勒菩薩(みろくぼさつ))、七七日(薬師如来(やくしにょらい))、百カ日(観音菩薩(かんのんぼさつ))、一周忌(勢至菩薩(せいしぼさつ))、三回忌(阿弥陀如来(あみだにょらい))、七回忌(阿閃如来(あしゅくにょらい))、十三回忌(大日如来(だいにちにょらい))、三十三回忌(虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ))です。

【2】葬儀のあとの法要

1.初七日

命日も含めて七日目に行うのが初七日です。故人が三途の川のほとりに到着する日とされています。故人が激流か急流か緩流かのいずれを渡るかがお裁きで決まる大切な日で、緩流を渡れるように法要をします。
初七日は骨上げから二~三日後となります。遠来の親戚に葬儀後、再び、集まっていただくのは大変なので、葬儀の日に遺骨迎えの法要と合わせて行うことが多くなっています。

2.四十九日までの遺族の心得

葬儀のあと、遺骨、遺影、白木の位牌を安置し、花や灯明、香炉を置くための中陰壇(後飾り壇)を設けます。中陰の四十九日間、家族は中陰壇の前に座り、故人が極楽浄土に行けるように供養します。七日ごとの法要が無理な場合でも、この期間は中陰壇の前にできるだけ座り、お線香をあげ手を合わせておまいりしたいものです。特に閻魔大王のお裁きを受けるという三十五日は、丁寧に法要を営むことが多いです。
一般には四十九日までが忌中(きちゅう)で、この期間は結婚式などのお祝いごとへの出席や、神社への参拝は控えるようにします。

3.もっとも重要な四十九日

四十九日は、初七日から七日ごとに受けたお裁きにより来世の行き先が決まるもっとも重要な日で、「満中陰(まんちゅういん)」と呼ばれます。故人の成仏を願い極楽浄土に行けるように、家族や親族のほか、故人と縁の深かった方々を招いて法要を営みます。そして、この日をもって、「忌明け(きあけ)」となるので、法要後、忌明けの会食を開きます。
法要は忌日(きび)の当日に行うのが理想ですが、実際には参列者の都合もあり、最近は週末に行うことが多いです。法要の日をずらす場合は、遅れてはいけないとされています。忌日より早めに行うならば、何曜日でもかまいません。
四十九日は、それまで喪に服していた遺族が日常生活にもどる日でもあります。

4.納骨

いつ納骨するかは地域の慣習によって違いがありますが、すでにお墓をお持ちの方は、四十九日法要と合わせて納骨を行う場合が多いです。
お墓の手配が間に合わない場合は、百カ日、一周忌などの法要に合わせてお墓を手配し納骨します。

「法要を営む日」
忌日法要
初七日(しょなのか) 命日も含めて7日目
二七日(ふたなのか) 命日も含めて14日目
三七日(みなのか) 命日も含めて21日目
四七日目(よなのか) 命日も含めて28日目
五七日(いつなのか)
三十五日(さんじゅうごにち)
命日も含めて35日目
六七日(むなのか) 命日も含めて42日目
七七日(なななのか)
四十九日(しじゅうくにち)
命日も含めて49日目
百カ日(ひゃっかにち) 命日も含めて100日目

年忌法要
一周忌 命日から満1年目
三回忌 命日から満2年目
七回忌 命日から満6年目
十三回忌 命日から満12年目
十七回忌 命日から満16年目
二十三回忌 命日から満22年目
二十七回忌 命日から満26年目
三十三回忌 命日から満32年目

【3】位牌は家族の心の支え

1.位牌の歴史

「位牌」と聞くと、どんなイメージを持たれるでしょうか。筆者は平成16年に起きた新潟県中越地震を思い出します。地震で避難された方々が一時帰宅を許されたとき、位牌を大事そうに持ち出す姿が強く印象に残っています。テレビでその姿を見たとき、位牌がこんなにも大事にされているのだと感銘を受けました。
位牌は故人そのものと考えられているので、仏壇に安置され、大切にあつかわれるものです。それを目の当たりにすることができたのです。
位牌は中国で生まれたものといわれています。板に先祖の存命中の位官や姓名を記してまつっていました。それが日本に禅宗とともに伝えられ、他の宗派に広がったのです。

2.白木の位牌

位牌には白木の位牌と本位牌があります。
亡くなったときから四十九日までは白木の位牌を使います。白木の位牌は、もともと葬儀の野辺送りに用いる仮のもので、葬儀のとき、葬儀社が用意しておいてくれます。白木の位牌に住職より戒名を書いていただきます。
来世の行き先が決まる四十九日の忌明けまでは、白木の位牌を遺骨、遺影とともに中陰壇に安置します。

3.本位牌

本位牌は四十九日法要までに、仏壇店(仏具も売っています)で購入しておきます。白木の位牌は仮のものですから、四十九日法要の時に菩提寺に納め、新しく作った本位牌に住職から魂入れをしていただきます。そして、仏壇に本位牌を安置します。位牌の表には戒名、亡くなった年月日が記され、裏には俗名、行年(享年)が記されます。文字入れには2週間位かかるので、早めに仏壇店に依頼しておくとよいでしょう。
浄土真宗では位牌は原則として用いません。過去帳や法名軸が位牌の代わりとなりますが、実際には、浄土真宗の家でも位牌がまつられている場合が多いです。

4.本位牌の大きさと種類

位牌は故人そのものと考えられているので、故人にふさわしいものを選ぶとよいでしょう。本位牌には漆を塗り、金箔や金粉などで飾った塗位牌と、黒檀や紫檀などでつくられた唐木位牌があります。また、形式には春日型、猫丸型、葵型などさまざまな型があります。位牌の形は宗派に関係がないので、好みの形を選ぶことができます。すでに位牌がある場合は同じ形で揃えることが多いです。

位牌の大きさは、仏壇の内部の作りにあわせることが大切です。
初めて位牌をつくる場合は、位牌が大きすぎて仏壇に入らないということがないように、先に安置する仏壇を決めてから考えたほうがよいでしょう。
位牌の寸法は戒名を記す札板の高さで決まります。上置型仏壇の場合は、札丈4寸か4.5寸、台付型仏壇の場合は、札丈4.5寸か5寸の位牌を安置する場合が多いです。
すでに位牌がある場合は、ご先祖の位牌と同じ大きさか、少し小さい位牌を選ぶのが一般的ですが、その家にとって、どの故人を中心に考えるかによって異なってきます。

また、本位牌は故人ひとりとは決まっていません。ひとつの位牌に夫婦ふたりの戒名を連ねて入れる場合もあります。この場合、一般に夫の戒名を向かって右側に、妻の戒名を左側に入れます。
先祖の位牌が増えて、仏壇におさめることがむずかしくなったときは、回出(くりだし)位牌につくりかえることができます。回出位牌には戒名を入れる板が十枚くらい入るようになっています。「○○家先祖代々之霊位」という位牌をつくることもできます。仏壇店に相談して、その家にあった位牌にするとよいでしょう。

昔の家長制度のもとでは、先祖の位牌は長男がお守りするというのが慣わしでしたが、個人の気持ちを大切にする現代では、次男でも三男でも両親の位牌をつくり、仏壇を用意することもあります。
また、身内にまだ不幸のない家庭でも、自分の全ての先祖に感謝供養する意味で、「○○家先祖代々之霊位」という位牌をつくる場合もあります。

5.戒名の入れ方

位牌の表面に、戒名と亡くなった没年月日、裏面に俗名と行年(ぎょうねん)(享年(きょうねん))を入れます。俗名とは生前の名前で、行年(享年)とは亡くなった時の年齢です。
行年(享年)は、満年齢と数え年のどちらにするか決まり事ありません。
亡くなった没年月日を裏面に入れる場合もあります。
戒名の文字は昔の漢字を使うこともあるので、住職が書いた白木の位牌の文字を正確に仏壇店に依頼することが大切です。
戒名入れの手法には、機械彫り文字と手書き文字があります。機械彫りは比較的早く文字を彫ることができますが、手書き文字の場合は、書いたあと乾かす時間が必要なので、注文してから2週間ほどの時間を見てください。

6.戒名をつけないときの位牌

戒名をつけないで葬儀をしたときは、後日戒名が決まってから位牌をつくります。そのまま戒名をつけない場合は、「○○○○之霊位」というように生前の名前を位牌に記します。

7.本位牌の安置

四十九日法要のとき、住職に本位牌の魂入れをしてもらい、仏壇に安置します。仏壇の中心は本尊なので、本尊がかくれないように左右か一段低い位置に安置します。向かって右側が上座なので、右側から先祖を古い順に並べていきます。
古くなって傷んだ位牌を新しくつくりかえるときは、新しい位牌は住職に魂を入れ替えてもらい、古い位牌は菩提寺に納めて「お焚き上げ」をしてもらいます。

8.仏壇の用意

四十九日法要を終えた後に、本位牌を仏壇に安置します。仏壇のない家は四十九日法要までに手配が必要となります。仏壇に関しては後章でくわしく述べますが、仏壇は一生に一度購入するかどうかの高価な買い物です。あわてて購入せずに、じっくりと選びましょう。早めに仏壇店をまわって仏壇の種類や大きさ、材質、価格などをみておくと、あわてなくてすみます。

「戒名」

位牌の表に記されている戒名は、仏の弟子になったことをあらわす名前です。本来は出家して仏門に入り、守らなければならない戒律を受け入れた弟子に与えられる名前です。一般には戒名と呼ばれますが、浄土真宗では法名、日蓮宗では法号ともいいます。
現在では、故人をたたえ、仏の弟子として浄土に往生するために、菩提寺の住職から故人に戒名を授けてもらいます。菩提寺のない人は葬儀を取り仕切る僧侶に授けてもらいます。
戒名はもともと二文字で構成されていました。それに院号、道号、位号が加わり、長くなっています。

●大人の場合

△△□□信士(女性は信女)、○○院△△□□居士(女性は大姉)などとつけます。院号は本来、生前に一寺を建立するほど寺院につくすなど貢献した人にだけつけられたものです。

●子どもの場合

1歳までの子には、○○嬰子(嬰女)、3・4歳までの子には、○○孩子(孩女)、
14・15歳くらいまでの子には、○○童子(童女)などとつけます。

【4】四十九日法要後にすること

1.香典返し

香典返しの時期は地域の慣習によって違いがありますが、四十九日法要の後に喪主が会葬のお礼の挨拶を兼ねて送る場合が多いです。
香典返しは、香典の半分、あるいは三分の一程度の金額の品物が一般的です。
表書きは「志」か「満中陰志」、下に喪主の家名を書き、忌明けの挨拶状を添えて送ります。
香典返しに添える忌明けの挨拶状には、会葬のお礼、四十九日法要を済ませたこと、香典返しを送ったことなどを記します。

2.形見分け

故人が生前愛用していたものを、肉親やゆかりの方々に差し上げることを形見分けといいます。形見分けは四十九日を過ぎてから行うのが一般的ですが、高価な貴金属や美術品は相続税の対象となることがあるので注意が必要です。故人より年上の方には、本人からの希望がない限り贈らないのが礼儀です。

3.相続の注意

故人が遺した財産を受け継ぐことを相続といいます。
相続については民法により、法定相続人と遺産相続割合が定められています。法定相続人とは、配偶者・子供(第一順位)、父母(第二順位)、兄弟姉妹(第三順位)です。
財産の相続にあたっては、相続税の納付が必要となります。
相続税の納付期間は、故人が亡くなった翌日から10ヶ月以内で、一定の額までは税金がかからない基礎控除がありますので、税務署や税理士に相談するとよいでしょう。

「墓地」

遺骨を埋葬する墓地は勝手につくることができません。「墓地、埋葬等に関する法律」(通称「墓埋法」)で、都道府県知事の許可を受けた区域に墓地がつくられています。墓地を運営する団体により、公営墓地、寺院墓地、民営墓地の3種類があります。
公営墓地は市町村などの地方自治体が設けるもので、使用者を公募で募集します。応募のとき「その市町村に住んでいること」や「遺骨がすでにあること」などの条件がつく場合が多いです。
寺院墓地は、寺院が檀家のために寺院の敷地内に設けるものですから、その寺院の檀家になることが前提となります。
民営墓地は、宗教法人や財団法人が運営するもので、多くの場合、広い敷地が公園のように整備されています。運営主体が宗教法人であっても、宗旨宗派を問わないところがほとんどです。

「墓地を買う」とよく言いますが、墓地の購入は、一般の土地購入とは異なり、墓地を永久に使用する「永代(えいたい)使用権」の取得を意味します。永代使用権とは、子孫がその墓地を継承する限り、使用権が連続するというもので、継承者がいなくなった墓地は、法律に定められた手続きによって墓地の運営者に戻されます。
永代使用権を得るには、永代使用料を払います。ほかに、墓地内の通路や水道などの共用部分の維持管理のため、管理料を支払い続けなくてはなりません。

菩提寺では永代供養をしてくれます。永代供養とは、菩提寺に長年の供養に必要なお布施をして、毎年のお盆やお彼岸、命日などに、故人やご先祖の供養してもらうことです。施主が亡くなって子孫が途絶えても、菩提寺で代々の住職が供養してくれるのです。
最近では、有効期限付きの墓地もできています。契約の期限が過ぎたり、最後に行った納骨から一定の期限が過ぎたら無縁化しないように、納骨堂や永代供養墓に合祀されることになっています。
墓地の場所は、距離や交通の便を考えて、お墓参りのしやすい所を優先して選んだ方がよいでしょう。

書籍「仏事・仏壇がよくわかる」

本記事は書籍「仏事・仏壇がよくわかる」からの転載です。

著:滝田 雅敏